12-1. 核酸のハイブリダイゼーション
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1) ハイブリダイゼーションとは
未知DNA(A)が目的のDNA(B)の塩基配列をもつ場合、両DNAを変性させて一本鎖にした後、混ぜてアニールさせると、A同士、B同士に加え、AとBの間の異種DNA間であっても相補的な部分で二本鎖となる
このような雑種核酸(ハイブリッド:hybrid)ができる(ハイブリダイズする)現象を、ハイブリダイゼーションという
ハイブリダイゼーションはDNA同士のみならず、RNA同士、そしてDNAとRNAの間でも起こる
ハイブリッド形成時にBを標識しておけば、標識を検出することで対象となる核酸を容易に検出することができる
Bのような標識核酸をプローブ(検知針の意)という
通常、被験DNAは濾紙やガラス板のような基盤に固定されているので、基盤に付いたプローブ量から元の核酸のおおよその量がわかる
2) $ T_mに影響を与える要因
表12-1$ T_mやハイブリダイゼーションに影響を与える要因
環境要因
$ T_mを下げる
有機溶媒、重金属
水素結合切断試薬(尿素、ホルムアミド、ホルムアルデヒド)
高pH(DNAのみに適用可能)
タンパク質(DNAヘリカーゼ)
$ T_mを上げる
一価陽イオン
重金属イオン
自身の要因
$ T_mが下がる
不対合塩基対がある
GC含量が低い
ハイブリダイゼーションの促進
核酸の長さが長い
GC含量が高い
DNA構造に依存する要因
天然DNAの$ T_m(Tm, 50%が変性する温度)は生理的塩溶液中では85~95℃
全塩基に対するG+Cの比率をGC含量というが、天然DNAのGC含量は30~75%の範囲に入る(多くは40~60%)
G-C対はA-T対よりも水素結合が1つ多く安定なため、GC含量が高いほど$ T_mはあがるが、そこには次のような関係がある
$ T_m=81.5+0.41\times(\mathrm{GC} \%) \cdots \mathrm{[Na^+濃度0.4M以上の場合]}
$ T_m=16.6\log_{10}\mathrm{M}+81.5+0.41\times(\mathrm{GC} \%) \cdots \mathrm{[Na^+濃度0.01〜0.4Mの場合]}
ハイブリッド中に不対合塩基対(正しい塩基対でない部分)があると、二本鎖は不安定になる
1%の不対合では$ T_mは1~1.5℃下がり、安定なハイブリッドの形成には、少なくとも70%以上の相補性が必要
塩濃度とpH
上式に示すように、Na+のような一価陽イオンがあると、負に電離した核酸のリン酸基同士の反発で二本鎖が不安定化するのを、Na+が電荷を中和して抑えるため、$ T_mが上がる
K+, Li+なども同様の効果がある
Mg2+のような金属イオンも類似の効果をもつが非特異的な結合も増やしてしまうため、実験ではEDTAやクエン酸などのキレート試薬を加えてその影響を抑える
水素結合切断試薬
尿素, ホルムアルデヒド, ホルムアミドなどは水に似た構造があり、塩基との間で水素結合をつくるため、結果として塩基間の水素結合が切られる($ T_mが下がる)
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ハイブリダイゼーション実験によく用いられる変性剤のホルムアミドは1%で$ T_mを0.61℃下げる
例えば、$ T_mが88℃の環境でホルムアミドを50%加えると$ T_mは57℃となり、どのようなDNAも100℃、数分の加熱で変性させることができる
その他
有機溶媒や重金属、高pH(高いOH-濃度)も、二本鎖を不安定にする
RNAの場合
リボースの2'位に酸素があるため塩基対が安定になる
このためRNAがかかわるハイブリッドはDNAだけの場合より安定
DNA-RNA、RNA-RNAハイブリッドでは$ T_mは1%のホルムアミド添加でそれぞれ0.5℃、0.35℃しか下がらない
3) ハイブリダイゼーションの実施条件
$ T_mと実施温度
ハイブリダイゼーションは$ T_mより20℃ほど低い温度で行う
$ T_m以上の温度で行ってもうまく進まない
低すぎると不正確な塩基対ができ、反応速度も低下する
ホルムアミドを50~70%加えると室温で操作することができ、高温による試薬や試料の劣化を防ぐこともでき、都合がよい
DNA側の条件
ハイブリダイゼーションは、一部がアニールし始めるとジッパーを閉じるように他の部分も加速度的にアニールするので、反応は長い方が効率がよい
ヌクレオチド数$ nのDNAの場合、$ T_mは以下のように計算する
$ T_m=16.6\log_{10}\mathrm{M}+81.5+0.41\times(\mathrm{GC}\%)-500\div n
これが通常塩濃度での$ T_mの計算式で、GC含量に基づいて計算するためGC%法という
ホルムアミドを加えれば$ T_mは下がる
オリゴヌクレオチドでの$ T_mの計算ではWallace法も使われる
ただ、DNAはあまり案がすぎると扱いにくくなり、反応条件を揃えるためにも、一般的には500塩基長程度にするのが望ましい
その他の条件
pHを中性にし、キレート効果のあるクエン酸やEDTAを加える
核酸の非特異的吸着を防ぐため、複数の高分子物質を含む溶液であるデンハルト溶液(アルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子物質を含む)や界面活性剤を加え、場合によっては水和(水を吸収し、水になじむ性質)の度合いが大きい硫酸デキストランを加えることもある
水が奪われ、結果的にプローブ濃度がたかまる
memo: 界面活性剤
界面活性剤とは水と油の境界面をなくし、水に油を分散させる働きのある物質の総称
分子内に水と油に溶ける両方の領域(親水基と疎水基)がある
試薬として、陰イオン性のSDS、非イオン性のTriton XやNP-40などが、吸着防止や溶解などの目的で使われる